太極拳in香港(8)
2月26日(水) ビクトリア公園
am7:00
沙田で会ったフォン・フェイは月・水・金の8時から10時頃までビクトリア公園にいる、と言っていた。
(太極拳in香港(5)「沙田表演会」参照)
ビクトリア公園は香港島サイドにあるし、私は九龍サイドにいる。
香港島サイドと九龍サイドはビクトリア湾をはさんで対岸に位置している。
行き来はフェリーか、地下鉄。私は初め行ってみる気はなかった・・・。
なぜなら、フォン・フェイが教えている教室だと思っていたし、遠いから。
そんな私が行こうと思い立ったのは、フォン・フェイが撮っていた沙田のビデオを
ダビングしてもらおう!と思いついたからだった。
我ながら「よくぞ閃いた!」と思った!
念のため、ホテルの封筒に空のテープと送料に使えるお金と、
私の名刺と簡単にダビングして欲しいというメモ書きを添えて用意した。
地下鉄を乗り換えしてコーズウェイベイ(銅鑼湾)で下りた。
am7:30
確か、フォン・フェイはテニスコートの入り口で練習してる、と言っていた。
まだ、8時まで時間があるのでゆっくりビクトリア公園太極拳偵察をしようとぶらぶら歩いていた。
すると、公園正面入り口に‘団体’発見。60人〜70人くらいはいただろうか・・・。
先生らしき方はピンマイクをつけて説明しながら列の前に行ったり、
後ろに行ったりしながら走り回っていた。
「すごい団体だなあ・・・42式か・・・」
老若男女入り乱れての集団太極拳。日本での私の教室を思い出してしまった・・・
私もまぎれようかと思ったが、助手らしき人が監視しているのでやめた。
am8:00
時間だ。
「テニスコート・・・テニスコート・・・あれっ!?」
なんと、董英傑先生の娘さんが剣を教えてるではないか!?
「はあ?あのおばちゃん、公園で教えてんのお!?・・・うそお!」
あれほどの先生の娘で、名刺を見ると権威もある人なのに、公園で教えてんのお?
私が声をかける前に、近づく私に気づいた先生は、
「あら、tuzi!」・・・どこまでも気さくなおばちゃんです。
「おはようございます。フェイ・フォンが月水金ここで練習してると言ったのを聞いたものですから」
「フェイ・フォン?」
「フェイ・フォンは来ていますか?」
「tuzi!フェイ・フォンじゃなくてフォン・フェイでしょう!」
「あ!そうでした!(笑)」
フェイ・フォンは映画の黄飛鴻だった・・・まぎらわしいっつーの!
「彼はきてないわね・・・」
「向こうで少し待っててみて」
少し離れたところには‘拳’のクラスが練習を始めようとしていた。3人ほど集まっている。
自分の都合のいい時間に集まって、運動して、少しずつ先生に習っていくようだ。
「おはようございます。フォン・フェイに聞いてきました。tuziといいます、日本人です」
長年続けていそうなおじさんが聞いた。
「楊式はしたことがあるかい?」
「ありますけど2年前です。もう、忘れています」
「じゃ、前で」
「いえ、いえ困ります・・・あなたが前になってください」
そして、私はおじさんについて父から娘に伝わった‘董英傑楊式’をいっしょに動いた。
胸が躍った!
私はこうして、飛び込みで交流する太極拳が大好きだ。
知らない人と、太極拳を通して交流ができることを心から幸せに思う。
動きは師父と同じ。そりゃそうだ、同じ人に習ったんだから。彼らも私も同じ孫弟子・・・
それにしても、2年前に覚えたはずの動きを忘れているとは、なんとも情けなかった。
am8:30
みんなから褒めていただいた。
お世辞に決まっているが、嬉しかった。剣を教えていた先生の視線も感じていた。
先生は終わると‘拳’グループにやってきて、私に聞いた。
「誰から習ったの?」
「香港で董英傑先生に習った人に教わりました。2年前です。
現在83歳で病気になってもう太極拳はできません」
「日本では楊式を習っているの?」
「いいえ」嘘です。「日本では制定拳をしています。24,48,42,88です。
88は楊式と套路がほぼいっしょですが、動きが全然ちがいますし・・・」
ましてや、‘董英傑楊式’とはぜーんぜん違う。
先生が携帯でフォン・フェイに連絡をとってくれた。
「tuzi!彼は仕事が忙しくて、今日は来ないって」
がーん!
「では、これを渡して欲しいのですが」と預かってもらった。用意してきていてよかったよー。
am9:00
先生は初級クラスをみはじめた・・・
私と上級クラスの仲間は、動きを復習。私はおじさんに忘れていた動きを教えてもらう。
徐々に師父の動きがよみがえってきた・・・
さっき、剣を習っていた人たちも合流して、あーでもない、こーでもないが始まる。
「tuzi!肩に力が入ってるよ。ファンソン(放松)して!」
「力は腰からだよ。tuziは手ばっかで押してる!」
手厳しい檄が容赦なく降りかかる・・・♪わかっちゃいるけど、な〜おら〜ない♪(by 植木等)
これが楽しいのだ!
先生が戻ってきた。
「tuzi!推手は習ったの?」
「いいえ、習ったことはありません。日本の教室で推手はしていませんので」
先生は不思議そうな顔をしいている。
そりゃ、そうだ。太極拳を勉強している教室で、そこの先生が推手を教えないのはおかしなことだ。
私だってそう思う。
推手のない太極拳は形ばかりで使えない太極拳なのだ。
先生が不思議がるのは当たり前だ。
「tuzi!単推手しましょう!」
それくらいなら私にもできる。北京で経験済みだし。
私は幸せにも先生にお手合わせしていただいた。
はじめのうちは互角だった。(先生が様子をみていたに過ぎない)
そのうち、いつの間にかバランスが崩されてしまった!
あまりにあっけなくて、わからなかった・・・。
先生はまわりのギャラリーに何事か言っていたが私には広東語なので理解できないし。
am9:30
先生は私たちのクラスに指導し始めた。タフなおばちゃんである!
今日は‘提手’の型だった。ひとりひとりの形をチェックし、私も直されたりした。
ひとしきり教わって、先生といっしょに最初から最後まで通す。
私は8時から動き通しで、既にヘロヘロだった。
「もうワンサイクルかよ・・・」(ワンサイクル20分かかる)
足が限界だった。でも、こんなことでへこたれていては修業者の名折れだ!意地でもがんばるっ!
先生の楊式は‘董英傑の赤本’(董英傑自身の連続写真の本)の動きが抜け出したかのようだった。
tuzi、感激ですぅ!
足が高く上がる重心移動は写真そのもの!
これです!これがあの本の動きです!tuzi、感激ですぅ!
重みがあります・・・それにしても公園でも教えているなんて、考えてもみなかったよ
am10:00
終わると先生が言った。
「tuzi!推手しましょう!」
「は、はい」
何を思ったか先生は再度、推手を要求してきた。
私は念入りに構えた。今度は低い体勢に持っていかれます。
「(足が・・・あー辛いですう・・・)」
でも、立ち上がる私。立つんだ!立つんだ、tuziー!(by あしたのジョー)
先生は軽く余裕で私を押しながら様子をみています。こっちはいっぱいいっぱいですってば・・・。
遂に私は潰れた・・・。
先生はまた、まわりのギャラリーに何事か言っていた・・・わかんないけど・・・。
am10:30
もう、私の足はパンパンで、膝がカックン、カックン踊っていた。
そんな私に先生は言い放った!
「tuzi!24式でいいから、見せて♪」
ゲッ!そんな殺生な・・・。
「8時からノンストップで動き通しで、足がガクガクです・・・」私は正直にそう言った。
「いいから、いいから♪」
私は早いとこ観念した。ギャラリーは早々花壇の柵に座っている。
はっきり言って足が辛かった。かなりゆっくりペースになってしまった。
終わっても先生は「上手、上手」としか言わない。
そして「競技大会に出たらいいじゃない♪」と言う。
ギクッ!実は先日出場したばかりだ・・・。
「tuzi!朝ごはん食べに行きましょう!」
「はい!喜んで♪」
我ら太極拳愛好団!太極拳世界はひとつ!
am11:00
先生とひとりの女性と私の3人で朝食をとりに行く。
先生が席をあけたとき、「脇をゆったりしたら、もっとよくなるわ」と助言してもらった。
見られながら先生が漏らしたのだろう。貴重な意見と心得た!
先生と食事までいっしょにできるとは思いもよらなかった。
「先生は日本に行ったことがありますか?」
「ないのよ。どんなことで遊べるかしらん?」
遊びかよ!?
「日本には温泉があります」
「tuziのところにも温泉はある?」
「あります、あります。お薦めは富士山を見ながらの箱根温泉です」
そんなことより聞きたいことがたくさんあったのに、温泉の話しになってしまって
話しを太極拳に戻せなくなってしまった・・・
am11:30
「ハッ!」
11時30分を過ぎている!ヤバイ!ヘレンとランチの約束をしているのだ!
私は約束があることを話し、食事もそこそこに先生と別れた。
これだから、ヘレンと約束なんかするんじゃなかったんだよ・・・(泣)
もっと先生と過ごしたかったよ・・・(泣)
疲れた足に鞭打って私は走った。
地下鉄で15分。ホテルまでダッシュで10分。待ち合わせまで残り5分!
私はなんでこんなに時間に追われてるんだ?
しかも朝食の30分後にランチって・・・?
日本に帰って、フォン・フェイにメールした。
ビデオはVCDにして送ってくれると言う。
そして、驚くべくことに董英傑先生の動画が送られてきたのだ!メールの添付ファイルでした。
白黒のホームビデオのようで、時代が時代なだけに写りは悪かったのですが、
そんなのが存在することすら頭になかったので、ビックリ!
「あるところには、あるのね・・・」
そして、そんな動く董英傑が見られる私って・・・、ミラクルだ!
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vol.32
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