太極拳in香港(7)

2月25日(火)

鄭式太極拳
気功教室同様(旅行記の三を参照)無料体験教室のサービスに太極拳教室があった。
太極拳教室の会場も公園内で、am7:30開始で、所要時間1時間とある。
ヘレンとは9時に約束をしておいた。

寒い朝だった。
先生は日本人女性。香港に住んで30年になる。広場にはキリスト教団体の集まりが・・・。
「この人たちは歌を唄ったり、お祈りを捧げたりしますが気になさらずに。
公園にはいろんな人が集います」と先生は前置きした。
この日の受講生は6人。私以外は観光で香港に来ていて、’観光の前に少し早起きして
太極拳とやらを体験してみよう’と考えて申し込んだ人たちばかり・・・。
「私といっしょにとりあえず動きましょう」と言う先生について、見よう見まねで動く。

先生の太極拳は「鄭式」といって、「武式」から派生したものだとおっしゃった。
私には「呉式」にも似て見えた・・・私は「鄭式」はおろか「武式」も「呉式」も経験がない。
妙なリズムだ。体が傾ぐ(かしぐ)。
太極拳はお尻が出てはいけないが、このように上体を傾ける式では相当上手い人でないと
お尻が出て見えてしまうだろう。事実、私の目には先生のお尻が出っ張って見えた・・・

それにしても、まねてついていく太極拳は楽しいが疲れる。
できなければできないほど、自分が可笑しくなって楽しい。
なまじ知ったかぶりになってくると、気持ちにマンネリが生じて楽しさが自然消えていくものだが、
こうして新しいものに挑戦するのも気分転換でいいものだ・・・。


見破られたり
一度通したところで先生がプリントを配られて「鄭式太極拳」の説明が始まった。
熱く語っていただいた。
「あなたは太極拳してるでしょう?」
ぎょっ!・・・どうしようかなあ、したことないって嘘ついちゃおうっかな・・・。
「あ・・あ、まあ・・・はい」しどろもどろ正直に答えてしまった私。
「さっき動きを見てわかったのよ」
そんなもんかなあ?私は「楊式」しか知らないから、「鄭式」はまったくの素人なんですけど・・・

鄭式太極拳119式の中の7式だけを教わる。といっても、すぐ覚えられるものではない。
その場では先生を見ながらについていけるが、あとでひとりでできるかといえば、それは無理!
私たちは1時間ほど体験して、終わりに先生が「鄭式剣」を披露してくださった。
そして、体験教室はお開きになったのでした。


普通に撮りたいんです・・・
せっかくだから先生と記念撮影を、と思いお願いした。
「だったら、あなたは単鞭ポーズでね!」
とポーズまで決められてしまった・・・先生は別のなんだかスッゴイ広がったポーズで・・・。
「(これじゃ、フレームに入んないよ・・・)」
いっしょに受講した人がカメラを構えたが、どんどん後退していった。
私はついカメラ目線になった。カチャッ!
「カメラ見ちゃダメよ!視線は向こう!」
「え〜、見ちゃいました〜・・・」
「じゃもう一回!」

先生は私以外の受講者にもポーズをとらせ、なんだか大記念撮影会になってしまった。
待ってる人に「普通に撮りたいよね・・・」と話す私だった。

 新井孝子先生。熱い講義ありがとうございました




教授3日目

収勢まで
「昨日はジンジードゥーリー(金鶏独立)まででしたね」
一度ゆっくり最後まで通して、分解に入る。
リリーさんは今日もきている。ヘレンに教え始めて今日で3日目。
「ジンジードゥーリー(金鶏独立)からもう一度シャーシー(下勢)・・・
二回目のシャーシー(下勢)で少し足をあげます。
そして二回目のジンジードゥーリー(金鶏独立)
・・・ワン!オープン、ライトフット!・・・ツー!クローズ、レフトフット!つま先からよ!

次は私も苦手な、ゾーヨウチュワンソウ(左右穿唆)だ。
「えっと・・・ボール・・・カメカメ、ハー!!
レフトハンド、ツォンヤオ(腰から)・・ライトハンド、ヘッドガード!(頭を守って)」
この動作は角度が斜めなので、油断すると足の開きが取れない。だから腰を痛めやすい。
私がその経験者です。自分でそのことに気がついたから大事にいたらなかったが、
以来この動作は私のトラウマになってしまった・・・。
「2回目もボール・・・足に気をつけて!・・・カメカメ、ハー!!

ヘレンも苦戦している。うん、難しいものね・・・何度もカメカメ、ハー!を繰り返す。
套路もここを過ぎればあとは楽になる。

ようやく最後まで説明が終わった。
私の説明でどれだけ理解してもらえたか大いに疑問ではあるが・・・。


期末テスト
「さあ、ではヘレンひとりで最後まで通してください」
ヘレンは少し緊張した面持ちになったが、意を決したように‘起勢’した。
前を見つめ深呼吸を繰り返している。

‘起勢’から‘イエマーフゥンツォン’
もう、違っている・・・がとれていない!
「指は前!」
‘パイフーリャンチィー’(白鶴亮翅)
あー、また行って来いしてる・・・。
‘タオジェンゴン’
手の位置がまた元に戻ってる・・・。
「手はお腹!」
‘ランチュウエウェイ・・ポン・・・リュイ・・・ジー・・・アン!!
「つま先あげて!」
タンビエン(単鞭)に移るところはメチャメチャだった。ヘレンもここはお手上げだった・・・。
「上下、陰陽」と、ヒントを出してもできない。
‘ガオタンマー’(高探馬
ここにきて、ヘレンはシッチャカメッチャカでやめようとさえしていた。
「オープンハンド・・・」と私は伴走に入った。

1998年だったか、私が師父に「ひとりでしてみなさい」と言われた時、
途中でわからなくなって、師父がそれを察して最後まで伴走してくれた。
私は助かったのと、ひとりでできなかった悔しさとで自分の情けなさを感じた。
その時のことを私は思い出していた・・・。

でも、私は師父のように人間が優しくできてない。
途中まで伴走して、できそうなところはヘレンひとりに任せた。
‘シャーシー’(下勢)のワン!ツー!
もできてないし、虚歩の足もあやしいところがある。
そして、全体的にがありすぎるのだ!これは、この短い期間ではどうしようもなかった・・・。

最後にいっしょに通しながら修正をしていった。
ヘレンも私も今日はクタクタになった・・・
私は普段あまり水分を取らないほうだが、今日は持ってきた水を飲もうと休憩タイムにした。
すると、ヘレンがミネラルウォーターを持ってきてくれていたのだ。
「持ってきてあります。これはあなたが飲んでください」
「じゃ、持ってかえって飲んでね」と結局いただいてしまった・・・。
ヘレンはこのようなミネラルウォーターの差し入れを残り2日間もつづけてくれた。
現地調達しようと思っていたミネラルウォーターは買わずじまいで、
しかも残ったミネラルウォーターを日本に持ち帰ったほどだった。

明日はビクトリア公園のフォン・フェイのところへ行こうと考えていた。
「ヘレン、明日私はこられません。あさって会いましょう」
「でも、12時ランチまでは帰ってくるでしょう?ランチはいっしょにしましょう!」
香港島サイドでなにか食べるのも悪くないと考えていた私だったが、
12時までは余裕で帰ってこれるはずだからと承諾してしまった。
この判断が悲劇を生む、とは知らずに・・・。
太極拳そっちのけで、とことんランチにこだわるヘレンだった。



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vol.31