太極拳in香港(6)
2月24日(月) 教授2日目
リリーさん
ヘレンは既に来ていた。昨日の復習だろうかもうひとりの女の人と練習していた。
「(やる気あるんじゃん)おはようございます」
「こちらは友人のリリーです」
「リリーです。私は毎日エアロビクスで運動しています」
ヘレンに話を聞いて、今日だけ遊びにきたのだろう。
ヘレン(右)とリリーさん(左)
「では、準備体操から」
ヘレンは既に練習していたが「始める前の準備体操は必要ですよ」と軽くあちこちをぐりぐり回す・・・。
「一回目は、ゆっくりとおしましょう」
私はリリーは置いといて、焦点はヘレンに集中していた。
私を真ん中に三人で動く。リリーは太極拳をしたことがないらしく、真似るだけがやっとだった。
「では、昨日の‘単鞭’のところまで復習しましょう!」
昨日のチェックを繰り返す私。弓歩・・・手の位置・・・虚歩・・・。
形はあとからどうにでも直せるが、体を痛めないための‘お約束’の姿勢
だけはみっちりおさえたい!
それは、足の開き、角度、膝の向き・・・などである。
その基本姿勢ができたら、次は攻防である。
手は相手のどこに向えばよいのか、
それはどう攻めようとしている手なのか・・・。
「イエマーフゥンツォンの手は相手の喉を突きます。だから指は前に向ける」
「ショウペイピーパー(手揮琵琶)は相手の腕を取って挟む!」
「タオジェンゴンは相手の手を取ると同時に顔を撃つ!」
このような攻防をリリーを実験台にしてへレンに見せたりしていた。
私は分解の中でこの二項目を重点に進めようと考えていた。
私の頭の中のカリキュラムでは今日中に、この2段階を最後まで説明したいと思っていた・・・。
難所
直っていないが、ヘレンの強い癖を直すのは一日や二日でできるものではない!
昨日の復習をしたことにして、先に進めることにする。
「タンピエン(単鞭)のあとのユンショウ(雲手)から」
「ユンショウ(雲手)の手の動きとタンピエン(単鞭)に入る時の手は同じ動きです。
ここは陰陽ですよ」
「ガオタンマー(高探馬)・・・あー!だめだめ!ちがーう!」
ヘレンは、なにがなんだかとんでもない動きをしていた。
「タンピエン、イーホウ、オープンハンド!アンド、イアーチエンメン・・・パン!
レフトハンド、お腹!・・フット、シープー(虚歩)・・重心、ホウタイ!(後腿)」
もう私は中国語、英語、そして日本語のちゃんぽんだった・・・。
次は蹴りの大技だ!
「トンジャオ!・・・シエン(先=まず)、ボディ、イーティアール(一点=少し))ライト!
アンド、クロスハンド!イーホウ(以後=それから)・・・ボディ、レフト!
アンド・・ゴンプー(弓歩)・・オープンハンド!・・・それっトンジャオ!」
ヘレンは自分で何度も繰り返しはじめた。やる気あるんじゃん!
ふと見ると、リリーさんの方がすっかり覚えてしまっていた。
私も繰り返して話す。「シエン、ボディ、イーティアールライト!アンド、クロスハンド・・・」
区切りのいいところまで進めよう。
「シャンフォングアンワール。チュアン(拳=こぶし)はこうするの。
相手のこめかみ狙って向かい合わせるのよ!」
「チュアンシェン(転身)トンジャオ!・・・
あっ!ヘレン、手が逆!クロスハンドは蹴るほうの手が上!」
次はシャーシー(下勢)・・・これはむずかしいぞー・・・。
ヘレンは手をなぜか下にもっていってこねくりまわしてしまう。
素直に上から右に持ってくるだけでいいのに・・・
「手の動きだけやってみましょう」
癖がとにかく強いヘレンはやっぱり手が下に行ってしまう。
ここでもリリーさんが覚えてしまった・・・
「足はね・・・あげないで、おろしたらすぐ開くだけ・・・無理して開かなくていいです。
つま先は前に向けて・・・手を突き出す」
ヘレンは私のところまで低くしようとしてがんばっていた。そんな必要は全然ないのに。
私は高い位置で形をつくってみせた。
「高さより、形が大事なのよ。・・・つま先は前・・手を突き出す!
これがシャーシー(下勢)!!」
シャーシー(下勢)からジンジードゥーリー(金鶏独立)で立ち上がる。
私は思った。「さて!ここも難所だぞ!!」
「シャーシー(下勢)・・・
ワン!オープン、レフトフット!・・・ツー!クローズ、ライトフット!
それっ!ジンジードゥーリー!!(金鶏独立)」
この動きは低い姿勢から、片足で立ち上がる動作なので、脚力が必要だ。
ヘレンは立ち上がれずに、よたっていた・・・。
だから言わんこっちゃない、シャーシー(下勢)は低くしないでおいた方がいいのだ。
このへんの感覚は自分の体に聞いて、無理なくつくったほうがいい。
何度も繰り返していくうちに姿勢も低くできてきて、そこから立ち上がる脚力もついてくるのだ。
はじめからできる人なんていない!!
それに、ここで大事なのは立ち上がることではない。
「・・・ワン!オープン、レフトフット!・・・ツー!クローズ、ライトフット!」
こうして、足の向きを進行方向に変えないと絶対に立ち上がれないし、順番を守らないと腰を痛める。
「・・・ツー!クローズ、ライトフット!ヤオ(腰)トンシー!(同時)・・・ヤオ!!(腰)」
このワン!ツー!の動作を抜いてはいけない。
あとは、手の振りを加えて立ち上がるだけだ。
「・・・ワン!オープン、レフトフット!・・・ツー!クローズ、ライトフット!」
やっぱり、リリーさんのほうが先に覚えてしまっていた・・・。
エアロビしてるから、のみこみが早いのかしら・・・?
ヘレンはリリーさんに叱咤されながらがんばっていた。
「立ち上がれないよう・・・!」
ランチかよっ!
ひととおり最後まで説明を終えたかったが、今日はここまでにしよう。
「休憩しましょうか・・・」
ヘレンもリリーさんも、だいぶ腿(もも)にきているようだ。
「痛い・・・」
「えっ?・・痛いですって!?どこが?膝?腰?」
「腿が・・・」
「ホッ!腿ね・・・膝や腰が痛くなったら言ってくださいね」
痛いのは腿だけのようなので安心した私だった。
休憩に入ると彼女たちは、私の説明などどこ吹く風でランチの相談をはじめた。
彼女たちを座らせて、シャーシー(下勢)からジンジードゥーリー(金鶏独立)の悪例をしてみせる。
「こういうことをすると膝を痛めます・・・おい、おい聞いてないのかよっ!」
彼女たちはえらい勢いでランチの相談をし話しがまとまると、
「tuzi!今日は私とランチよ!」とリリーさんが言った。
「ハイハイ、わかりました。じゃもう一度ジンジードゥーリー(金鶏独立)復習しましょう!」
と、おざなりの返事をする私に、
「えー!今日はもう終わりましょうよ!!」
太極拳よりランチが大事の彼女たちに成す術もない私だった・・・
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vol.30
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