太極拳in香港(5)
沙田表演会
2月23日(日) pm7:30〜pm10:00
沙田大会堂
沙田大会堂は駅の目の前のホールだ。IDカードさえ見せれば選手はフリーパスだと思っていた。
受付でIDカードを見せて、当然の如くホール席に入っていこうとしたら、ストップがかかった。
「え?」
広東語でなにか言っているが私にはわからない。
「私は日本人です。広東語はわかりません」
「あー、こちらはチケットを持っていないと入れません。選手の方は3階席へご案内します」
「そうでしたか。ありがとう」係りの人が案内してくれた。
この表演会は大会参加者のためではなく、普及の為のデモンストレーションでもあるらしい。
各武術団体に大会への参加不参加関係なく、チケットを販売して開催したのだ。
だから、1階席は指定席かもしれないし、太極拳をしてない来賓客もかなりいるのだろう。
あと20分くらいで始まるというのに思いのほかガラガラだった。
「ラッキー!一番前があいている」
3階席の一番前はさえぎるものがないし、ポールに寄りかかって見れるので、
ビデオ撮影や写真を撮るには最適だ。
私は一応ビデオカメラを持ってきてはいたが使い慣れていないし、バッテリー時間が短い。
充電はしてきたがうまくいくかどうか自信はない・・・。
フォン・フェイとの出会い
隣に45歳くらいの男の人がふたり座っていた。
前の列には、まだ私とふたりの三人しかいなかった。
プログラムを見ながらなにか話している。
プログラムがあるの?(私は競技大会の冊子しか持っていなかった)
どこでもらってきたんだろう?
「あの、すいません。そのプログラムどこでもらってきたんですか?」
「下にあったよ」
「下?」また下りてあがってくるの面倒くさいな・・・。
「ちょっと、見せてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。あげるよ。俺たちふたりで見るから」
「ありがとうございます」
半ば強引にもらったプログラム。始まってみたら全然違ってた・・・
約30人の表演が予定されていた。どの人も聞き覚えのない名前ばかりだ。
でも、それは私が知らないだけで、中国では有名人なのだろう。隣の人に聞いてみた。
「この人たちは中国では有名人なんですか?」
「プログラム最初のうちは香港の先生方だな。あとは中国から来たスゴイ人だよ・・・。
特に‘太極門派師範級’の先生方は太極拳してる人なら知らない人なんかいないよ」
「へー、この人たちですか・・・」
「孫式の‘趙勇’は中でも一番だな!」
「‘趙勇’ですか?・・・私は聞いたこともありません。私は日本人なのです」
「あんたは日本人だったのか!?」
「はい。日本で有名と言えば、陳式の王西安、陳小旺、陳正雷。
楊式では楊澄甫、陳微明、田兆麟、董英傑・・・でもみんな死んでしまいましたね・・・(笑)」
「太極拳を勉強してるの?」
「はい。香港の師父は、董英傑先生から教わった人です。今は病気でもうできませんが。
私は中でも董英傑が一番好きです。かっこいいです!
でも、董英傑は日本で知ってる人はあまりいません。私はもう6年前から知ってますけどね!」
と、私は董英傑の良さをフォン・フェイ相手に熱く語っていた。
「俺の名前は黎鴻輝(フォン・フェイ)だ。あんたは?」
「tuziと呼んでください!」
「いま、俺の先生を呼ぶからさ!」とフォン・フェイは携帯電話で先生とやらに連絡をとりはじめた。
なにも、あんたの先生に用はないんですけど・・・と思いながらもほっておいた。
セレモニーがはじまった・・・
フォン・フェイの先生現る!
たまたま隣に座っていたフォン・フェイに、私が董英傑ファンだと漏らしたことと、
フォン・フェイが自分の先生をわざわざ電話で呼ぶことと、どういう関係があるというのか?
私にはさっぱり理解できなかった。
「先生は1階席にいるんだけど、今来るから」と、しばらくしてフォン・フェイがいう先生が来た。
「こちらが俺の先生。こちらはtuziです」と紹介された。
私は、見覚えのあるおばちゃんに目が釘付けになった・・・
おばちゃんは何ごとか私に話しかけてきたが、広東語だったのでわからないでいたら、
フォン・フェイが「tuziは日本人なんですよ」と説明してくれた。
おばちゃんはフォン・フェイに「早くそれを言いなさいよ!」
とフォン・フェイの肩を親しげに叩いている・・・。
「この人は・・・もしや・・・董英傑の娘じゃないか!?」
私は6年前に買った董英傑の‘赤本’を持っている。
表紙が紅いのでフォン・フェイと話の中でそう呼び合っていた。
その‘赤本’の中に継承者である6人の子供たちの写真が載っていた。
末娘の顔がおばちゃんだった!
「あなたは董英傑先生の娘さんではありませんか?」
「そうよ」と名刺をくれた。
「・・・ムムム・・・」言葉を失うtuzi
なんで、こんなことに・・・娘さんと会えるなんて・・・感激です!
たまたま隣に座ってた人が董英傑の娘の弟子で、
たまたまその人に董英傑ファンであることを話して・・・
偶然って・・・これは、ミラクルだ!
娘さんは私といっしょに表演会を見学していたが、しばらくすると1階席に戻っていった。
「じゃあね、tuzi!」
気さくなおばちゃんだった。私にとっては董英傑先生は師父の師父。
その娘さんと直に話せるなんて、夢みたいです・・・。
感激です!
表演会
娘先生は戻って、フォン・フェイと表演会を見学していた。プログラムの予定と全然違う進行だった。
フォン・フェイはまた、どっかに携帯で電話して、手書きのプログラムコピーを手に入れた。
裏にコネがあるみたい。おかげで、私も表演内容がわかって大助かり・・・。
フォン・フェイはビデオカメラで全表演を録画している。
「有名な人が出てきたらお知えてね♪」
私はバッテリーが心配なので、全部を録画するなんて、とてもできそうにない。
結局、楊式を録画しただけでバッテリーが切れてしまった。なんとも情けない、しょぼいビデオだ・・・。
中国内陸から招かれた重鎮の華麗な表演の渦
白鶴拳
中でも目を見張ったのが‘趙保和式’だった。もの凄かった!とにかく凄まじいの!
客席もやんややんやの大喝采とため息の連続・・・。あとは、‘白鶴拳’もなかなかよかった。
私が知ってる制定拳套路で良かったのは呉阿敏(女史)の‘42式総合’。堂々たる美しさだ!
フォン・フェイが言うには「彼女はVCDをたくさん出してるよ。知らない?有名人だよ」
私はこの時まで呉阿敏を知らなかった・・・太極拳してる端くれとして恥ずかしい。
是非もう一度見たい!趙保和式!
はあ?
呉阿敏の次が‘42式剣’だった。私は表演者を見て驚いた!
その彼女は、大会で知り合った西安からきた彼女だったのだ!
「はあ?興味ないからこない、って言ってたのに・・・出演してるし!」
彼女はあの日の夜の競技で優勝したのだ。もうひとりの‘鞭’の彼女も出演した。
彼女たち、大先生と大舞台で共演したし、これで一流選手のひとりじゃんか・・・。
そのうちVCD発売なったりしてね。それにしてもビックリしたあ・・・。
主審判だった人の剣の表演もあった。
この主審は日本(後日、名古屋在住であることがわかった)で指導にあたっている。
審判の紹介でも‘JAPAN!’と言われていた。
彼は草刈正雄のような顔立ちで、その功夫も素晴らしかった。
フォン・フェイも「彼は日本で教えてるんだよ」と知っていた。
日本で教えている張先生
競技大会では主審をつとめていた。後ろ向きのショットですが、正面は草刈正雄でした・・・
こうして各種太極拳の華々しい競演を見ていると、楊式のなんと退屈なことか!
まるで、テレビでサッカーの観戦をして、すぐ野球の試合を見た時のようなけだるさを感じる。
「まだかよ・・・」
客席は正直だ。あくびが聞こえてきそうだった。
「長いよ・・・」
まだまだ続くのに、つい拍手してしまいたくなる・・・。
「楊式ってダメだなあ・・・」
私もフォン・フェイも伝統楊式をしているが、この表演に関しては同じ意見で一致した。
録画なんかするんじゃなかった・・・失敗。
フォン・フェイは「月・水・金、8時頃から10時頃までここで太極拳してるから」と場所を教えてくれた。
香港島サイドなので九龍サイドの私のところからは離れているが、ぜひ行ってみたい。
でも、ヘレンとの約束もあるし・・・
「あした月曜日は無理なんだけど、水曜日ならたぶん行けると思います」と別れた。
私はてっきりフォン・フェイが教えている教室なのだと思っていた。
ミラクルの立役者、フォン・フェイ
ミラクル!
とにかくありとあらゆる太極拳を、ゲップが出るほど堪能した。満腹です!
こういった機会はそうそう持てるものではない。
中国から大師範が一堂に会すなんてこと自体、滅多にあるものではない。
私は出発までいろいろあったが、香港にきて本当によかったと思った。
大会参加にしても、この表演会にしても自分の肥やしになったことに違いない。
真物を見る。このことに尽きるのだ!
美術品だって、絵画だって、真の実物を目にしただけで、偽物が見破れるほどの成長を
みせるものではありませんか。一番の勉強だ。私はこの点において幸せものだ、と思う。
そして何よりも、董英傑先生の娘さんとの出会いがあった!
大会で偶然知り合った彼女たちの、華々しい結果も見ることができた!(太極拳in香港(3)参照)
こんなことは願ってもないことではなかろうか・・・
ミラクルでもない限り!
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vol.29
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