太極拳in香港(4)
2月23日(日) 教授1日目
遅刻する弟子ってか
ヘレンと約束の8時までに公園に行った。しかし、着いてみてもヘレンがいない。
「遅刻?それとも、すっぽかし?」
私はひとりで24式を始めた。終わってもまだこない。師父に習った楊式をしていた。
へレンがやってきた。出掛けに子供のことで忙しかったらしい。
私は昨日の大会で好成績だったわけでもないのに、人様に教える資格もないように思うし、
教えてる場合じゃないだろうに。とはいうものの約束は約束なので・・・
「では、はじめましょう」
まずは準備体操から。足首ぐりぐり、手首ぐりぐり・・・腰を左右に大きく回して、何度も何度も・・・。
膝を屈伸して、横に開いて伸ばして・・・アキレス腱伸ばして・・・
ヘレンは素直に私のやるとおりにならっている。
「準備運動は大事よ。体を痛めないようにネ」
「では、ゆっくり一度24式を通しましょう」
ヘレンは套路を知っているから、私を見ながら動くことができる。
始めの一回目は黙って動く。24式は3分くらいで終わる短い套路だ。
次に少しずつ区切って分解していくことにした。私は套路名を中国語で言いながら進める。
「チーシー(起勢)・・・」
太極拳用語は中国語で、説明は英語を主に使うことにした。
私は英語より中国語の方が楽なので、英語と中国語のチャンポンだ。
「重心を100l右足へ・・・左足を肩幅に開きます・・・手を肩まであげて・・・
沈みながらお腹の前まで・・・」
呼吸は後回しにして、まずは形の定式を教えることにした。
正確な定式を覚えないことには、体を痛めるからだ。
おととい見たヘレンの定式はクセがありすぎて危なかったからだ。
あのまま続けたら、故障が起きると思ったのだ。
「イエマーフゥンツォン・・・ball・・・フゥンショウ(分手)・・・ゴンプー!(弓歩)」
横目でみればヘレンはゴンプー(弓歩)の足幅の開きが足りない。これでは腰を痛めるぞ・・・。
でも、とりあえずもう少し先までいってみよう。
「イエマーフゥンツォン・・イー、アール、サン!」
「パイフーリャンチィー(白鶴亮翅)・・・」
あー、こりゃひどいぞ。重症だ。
「ラオシーアオプー・・・イー、アール、サン!・・・ショウペイピーパー(手揮琵琶)」
うん、ここはまずまず・・・
「タオジェンゴン!イー・・アール・・サン・・・スー」
うーん、引いた手の位置がおかしい。
「ランチュウエウェイ・・ポン!リュイ!ジー・・・アン!!」
「タンビエン!・・・はい、ここまで!」
姿勢(形)が大事
「じゃあ、最初に戻ってもう一度」
私はいっしょに動きながら、定式で止めてヘレンの姿勢をひとつひとつ直していった。
「重心は片足に100l!つま先から下ろす!・・・そうです」
「イエマーフゥンツォン・・・ball・・・フゥンショウ(分手)・・・no!
分手是・・・チェィヤン!(このように!)」ヘレンの手をとり分手をさせる。
「こうよ!look!・・・こう!・・・yes!
イープー(一歩)・・ゴンブー・・no!弓歩是チェィヤン!」
私はかがんで手でヘレンのシューズを直す。
「前足と後ろ足がぶつかってはいけないの。レンガひとつ分はあけてね。後ろ足は45度よ」
次は問題の「白鶴亮翅」だ。
「パイフーリャンチィー(白鶴亮翅)・・・ball・・・ホウピエン(後辺)カオ・・・イーホウ(以後)
フゥンカイ!(分開)」
あー、やっぱダメだ。
「先ball!(まず、ボール!)以後分開!(そのあと分ける)」
うーん・・・へレンのはカオを意識しすぎて、手があんまり後ろに行き過ぎるのよねえ。
それだから、手が行って来いしてる・・・
「足はシープー(虚歩)後ろ足に重心100l!」
「つらーい!」
「これがシープー(虚歩)です」
細かい手の動きはあとに残して、
「ラオシーアオプー・・・イー、アール、サン!・・・ゴンプー!」
さっき注意したばかりの弓歩が、もうなってない。
ストップをかけて「後ろ足は45度よ」と言いながらまた私はかがんで手でヘレンのシューズを直す。
「ショウペイピーパー!(手揮琵琶)・・足はシープー(虚歩)後ろ足に重心100l!」
「つらーい!」
そんな声を無視して進む私。
「タオジェンゴン!イー・・手の位置はここ!look!・・ここ!・・アール・・サン・・・スー」
「ランチュウエウェイ・・ポン!・・ポンは肘から下の腕で押すのよ。リュイ!ジー・・・アン!!
アンは大きく引いて、小さく肩幅で押すのです」
「タンビエン!手の旋回は上下で。これが陰陽です」
ノンストップ
休憩をかねて、ノートに書いて説明した。
弓歩の足のつくりの図や、太極拳のベースになってる陰陽のことなど、書いて説明することに。
とにかく私が焦点にしているのは、体を壊さない太極拳を身につけて欲しいということ。
ヘレンを休憩させて、膝、腰・・・こういうことで悪くするという悪例をしてみせた。
「こういうことをしてはいけません。痛くなります」
「じゃあ、今度は私が見ます。ひとりで単鞭まで」
「イエマーフゥンツォン・・あーほら、手は前に、喉を攻めて!」
「足!45度!」
「パイフーリャンチィー(白鶴亮翅)・・・」これはあとで特訓が必要だな・・・。
「ラオシーアオプー・・」うーん、手の運びがクセついてるのねえ・・・。
「ショウペイピーパー!(手揮琵琶)・・タオジェンゴン!イー・・手!アール・・・」
「ランチュウエウェイ・・ポン!リュイ!ジー・・・アン!!アンはつま先を上げます」
「タンビエン!(単鞭)・・・体は前を向いて・・・相手の顎を狙って・・・ふむ、そうです!」
手の運びをなおさないと・・・陰陽になってないし!
ヘレンはへたっていた。そりゃ、こんなに一気に進んだら疲れるわよね。
でも、限られた日数の中でひととおり形あるものに仕上げたいと思っていた私は、
無責任に中途半端なことで終わらせたくなかったのだ。
優しく話してはいたが、要求することはかなりきつかったと思う。
私の師父は優しかった。でも、できてない箇所を見つけると段階を追って徹底的に突いてきた。
私は、教わったように教えるもんなんだな・・・と我ながら驚いていた。
ヘレンに「さあ、じゃあもう一度いっしょに単鞭までとおしましょうか?」と言ったみたが拒否されてしまった。
「私は若くないのよ・・・」
特に虚歩が辛かったようだ。
「そうかなあ、私とあまり変わらないように見えますが」
「50歳よ!」
年上のお弟子だった・・・。
ヘレンの模様は太極拳(6)につづく
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vol.28
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