太極拳in香港(2)

2月21日(金) 猛練習

手がかり
お経軍団はいなかったが、師父もいなかった。
ガック〜ン・・・師父はどうしたんだ?具合が悪いのか?
・・・もしや本当にお墓参りか?

私は仕方なく自主練習を始めた。大会は明日だ!
本番で頭の中が真っ白になっても、体が勝手に動いてくれるように繰り返す・・・。
ペースも6分以内に収まるように体に叩き込んでおかねば!

練習しながら回廊の外に目をやると、そこに見覚えのあるおじさんが。
師父との練習風景を、いつもあたたかく見守ってくれた裸のおじさんだ!
(2000年香港‘裸のおじさん’参照)
「いや、待てよ・・・」単に似てるだけの人かもしれない・・・。
遠目からは、おじさんなのだが私の知ってるおじさんよりだいぶ老けている。
「3年しか経ってないのに、別人のようだ・・・別人かな?」
近づいていくと、やっぱりあの裸のおじさんだった!

「私は3年前、ここで太極拳を教わっていたものです。日本人です。
ここで太極拳していた師父を知りませんか?」
ああ!思い出したよ!あんたか!」
師父は2年前から姿が見えないと言う。
「2年も前から?奥さんもですか?」
「見てない。病気かもしれないな・・・」
病気、って言ったって2年も前から病気してたら、師父の年齢じゃ生きていないんじゃないの?
「死んだかな?」遠慮のない私。
「わからない。家は知ってるのか?」
「住所は知ってます。行ってみようと思います」
「そうか・・・それにしてもよく来たな!初めわからなかったよ!」
そういうおじさんの方こそわからなかったよ。本当に老けこんでしまって・・・。
3年は思いのほか長かったということか・・・。

おじさんと話しているところへ、ひとりの女性が近づいてきた。
この女性は、私の自主練習に少し離れた場所から視線をおくっていた人だった。
広東語で私とおじさんに話しかけてきた。おじさんと話してる私を見て香港人だと思ったのだろう。
おじさんは「この人は日本人で、ここで太極拳をしている人に習いに来ている人だ」と説明。
「この人の太極拳すごいのよ!」
「知ってるよ、なあ」と私にふってきたが、ダメダメと手をふる私・・・。
3人で師父の安否を話して「師父に会いに来たのにいないのよ・・・2年前から来てないんですって」
「年齢は?」
「83歳くらい」
3人同時にため息・・・
ドヨ〜ンとした空気の中おじさんは帰っていった・・・。


24式
「ヘレンと呼んで下さい」とその女性は名のった。
私より少し年上に見えた。
「あなたの太極拳はすごい!きれい!とヘレンは絶賛した。
そんなこと言われたことのない私は、恥ずかしさで体中が痒くなった。
「そんなことはない。私の太極拳はまだまだです」
「ううん!あなたのようにきれいに太極拳してる人見たことないもの!」
「太極拳はしたことがありますか?」
「2年前に10日間だけ。その後独学したけど、なげだしちゃった!」
「何を習いましたか?」
「24式です」
「ああ!だったら一緒にしましょう!」
私とヘレンはゆっくり24式を通した。私のほうが24式は久しぶりで套路を忘れていたほどだった。

ヘレンは基本がなってなくて、ものすごくクセが強かった。

「明日もきますか?」
「あしたは香港島に行かなければならないので、来れません」
「あさっては?」
あさっては日曜日で大会も終わってるので、リラックスして練習ができる。
「8時頃ここにきます」
「私も来ますから教えてください」
それって弟子入りってこと?
「じゃあ、あさって8時ここで」

ヘレンと別れて、私は明日の42式の練習に戻った。
師父に教わった場所で、師父がいなくなった今、今度は私がヘレンに教えることに・・・。
世の中はこうして巡っていくのだ、と感じた。


この日一日中42式の練習を続けた。これが明日、悲劇をもたらすとも知らずに・・・。


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vol.26