2002年 北京6

3月5日(火)
「擁和宮」

天気予報
昨晩ホテルに帰ってきたのは、夜の10時過ぎだった。
思いもよらない一日だったと改めて思い返して床についた。

朝、物売りの声で目が覚めた。今日は太極拳に行かないので、のんびり朝寝坊ができる。
天気予報を見ようと思って、布団の中からテレビをつけた。
中国は広い。天気予報だって長い。(北京ははじめの方に放送される)
そして、日本の天気予報にない、ある特徴があることに気がついた。
それは‘大気汚染度’の発表があるのだ。最低気温、最高気温、湿度、大気汚染度が放送される。
中国の大気汚染がひどい状況というのは耳にはしていたが、これほどまでとは・・・。
春先は風が強い。女の人は頭からスカーフをかぶって、口元を覆っている光景がよく見られる。
そうでもしないと、鼻の穴は真っ黒!喉はガラガラ!
口の中は砂でジャリジャリ!になってしまうのだ!
今日の北京は快晴だが、風が強そうだ・・・。

朝のテレビ番組
テレビを見ながら朝食を食べていた。
朝の運動‘エアロビダンスの講習番組’、約15分。
テレビを見ながら「ワンツー!ワンツー!」と、いっしょに動いたりするんだろうと思った。
そのあと、続けて‘社交ダンス’この日は「クイック、クイック・・ターン!」のジャイブだった。
15分番組は続く・・・‘陳式太極拳’「おおっと!」箸を持つ手が止まった。
毎日少しずつ講習している番組なので、途中からだが15分で2,3の動作を教えてくれる。
これなら、家にいながらにして‘陳式太極拳’がマスターできる。日本と環境が違いすぎる・・・。
‘陳式太極拳’が終わると、‘楊式剣’15分、‘太極扇’15分・・・というように、ありとあらゆる種目が毎朝放送されている。
(講座の先生が「皆さんまた明日!」と言って放送が終わっていたから)

そういえば、昨日の晩おばさんの娘さんの家でテレビを見ていたら、‘京劇’を放送していた。
日本では公演がない限り見ることはできないが、北京では番組として放送されているってことだ。
「(これじゃ、わざわざお金払って行かなくてもいいわけだ・・・)」
私は、毎晩でも京劇が見ていたいほどの京劇ファンなので、「(これはいい!)と思う一方で、
やはり、京劇は生の公演を見るのが一番だ、とも思った。
とにかく、朝の太極拳の講座番組には舌を巻いた私でした・・・。

強風に吹かれて
北京滞在最終日の今日は、ホテルから東へ。まずは擁和宮(ようわきゅう)へ行こうと思う。
今日は風が強い!ホコリまみれになりそうなので、マフラーで口を覆う。
髪の毛に砂が入り込んでジャリジャリになっている・・・。
時折突風が吹いて飛ばされそうになる。目も開いていられないほどだ。

ラマ教の寺院である擁和宮に到着したら、巨大線香立てを移動していた。
風が強いので広い所に移していたのだ。

 風の当たらない場所に移動


浄城慈因の中に巨大菩薩が安置されている。高さ十数メートルはある。
この菩薩がチャーミングでかわいかった。
私はここに来るまで、ここがラマ教の寺院とは知らなかったが、建物といい、
僧侶のいでたちといいチベット密教を思わせる雰囲気が漂っていた。

 この中に巨大菩薩が立っている


鐘楼があった。10元で3回打てるとある。
「誰か、打たないかしら・・・」と、せこく人が来るのを待っていたが、誰も興味を示さなかった。
聴いてみたかったなあ・・・てか10元払って打てばいいのに。

 鐘や太鼓があると叩きたくなるのは私だけ?


 寺院内。造形がユニーク・・・


孔子廟
擁和宮から、すぐの所に孔子廟がある。
ここは、孔子好きの方にはたまらない場所となるでしょう。そうじゃない方にもお薦めです!
入場すると、孔子の像が迎えてくれます。その両脇には、歴代科挙合格者の碑がずらーり!
壮観な眺めです。碑は獅子や、亀の上に乗っていたりしています。
これら獅子や亀の石の彫刻もカッコいいんですよ・・・。中国彫刻はみんなカッコいいのよね〜♪

 孔子像。眉間が険しい!


 科挙合格者の碑が時代ごとに林立する


樹齢700年の大木の後方萬世師表の中に孔子の位牌はあった。
ここでも、タイミングよく古代演奏が聴けた。(ヨーロッパ団体客のおかげです)
古代音楽は原始的過ぎて、現代の私たちが聴くと‘おどろおどろした幽玄の世界’に聴こえる。
朱旋律を奏でるのは、オカリナのような笛だったせいなのだろうか・・・?

 後ろの建物が萬世師表



‘雅楽’の演奏が聴けた。ラッキー♪でもちょっと怖い・・・


くまなく見ようと奥へ奥へ進んでいくと、十三経石碑館が。
体育館のようにひろーい空間に石碑がビッシリ!
誰もいないかと思いきや、一人の青年が石碑の中からひょっこり現れた!ビックリ!
Where are you come from ?」「jkgじえpj」「?・・・Pardon?」「Jamaica 」
「あー、ジャマイカね・・・ふーん、中国語はできるの?」「少し」
「文字(漢字)は読める?」「全然読めない」
モンゴルから北京にやってきたと言う彼は、1ヶ月間中国を旅して帰るという。彼も中国好きなのだろう・・・。

 スゴーイ!の一言


孔子の有名な弟子、子路顔淵の像もあった。

孔子は子路の向こう見ずな性格から、その死を予感していた。
元々子路は武人で、学問などこの世には不要だと豪語していたのだが、孔子の徳に触れ、
学問を志し弟子になった人物である。なまじ、学問のある人間はわからないことがあっても、
人に教えを請うことを由としなくなる傾向がある。
多数いた孔子の弟子の中でも、子路はわからないことはわからないと、率直に孔子に質問するような素直さと、
親しみを持つ憎めない奴だった。
その彼が、戦乱に巻き込まれて命を落とすときは、最後は武人としてではなく、文人として死んだのです。
文人としての心意気を体を無残にもズタズタにされながらも示した子路の物語です。(中島敦〜弟子(新潮文庫)参考)

 子路(剣をもっている)  顔淵


顔淵は子路とは正反対の優等生で、一を知りて百を知るような秀才だった。
元々体が弱く、若くして死んだ。弟子に先立たれた孔子の悲しみは計り知れない・・・。

孔子の論語の言葉の数々は、数千年を隔てた現在でも人の心に響く。私も孔子ファンのひとりです。
当時の人物の中でも傑出している頭脳の持ち主だったとも思う。
彼の考え方はあくまで人間の力を追及するものであり、厳しすぎる・・・と私は思っている。
「そりゃ、あんたのような優秀な人には簡単にできるかもしれないけど、あまたの凡人が
その域に達するのはたやすい事ではないのだよ!」と孔子を前に説教したくなるほど彼の理論は完璧だ!
彼の残した言葉は、有無を言わさず多くの人を唸らせ、力と希望を与えてくれる。
でも、それは彼の人生の過酷さをも同時に証明しているのではなかろうか・・・?
精神の過酷な経験が孔子に言わせた言葉ではないかと、私は思っているのです。
死ぬときに、自分の人生を振り返って満足して死ねたかどうか・・・。
死ぬときに人生を受け入れて、満足し納得できれば、それは「幸せな人生」だったのだと私は思う。
私は、まだ人生半ばで受け入れられずに、もがいてばかり・・・。
周りが私を「幸せじゃないの」と言おうが、本人が辛ければそれはそれで「不幸」というものでしょう?
「幸せ」の形はひとりひとり違うもの。皆さんはどうですか?現在に満足ですか?幸せですか?

「世界がもし、100人の村だったら」という、インターネットを介して広がったメールが本になっています。
これを読むと、「あなたは(読者は)「幸せ」な人間なのだ」と押し付けられます。
そりゃ、私の悩みや、苦悩など、生死を分けるような事柄ではないし、
食事が満足に取れないような急を要する事柄でもありません。
だからといって、私の悩みが消えるわけでもないのです。
私にはこの本が「満足しなければならないんだよ」と言っているようにしか聞こえないのです。
「幸せ」の価値、基準が「富み」に少しばかり、偏ってはいませんか?(アメリカがメールの発生源)
まあ、「衣食足りて礼節を知る」ともいうから、生活が立っている、生きているだけでよし!と
しなければならないのでしょうが・・・どうも、まやかしっぽく聞こえてしまうのは私だけでしょうか?
(本はマガジンハウスから出ています)


「梅蘭芳記念館・恭王府など」
東から西へ
午後はホテルをはさんで西へ向かいます。強風は止みそうにない。
めざすは梅蘭芳記念館である。地図で見るとかなり距離があります。
でも時間はたっぷりある・・・。歩くことにした。

故宮の裏、景山公園のすぐ裏とぶつかる十字路に立った。左に景山公園、右に鼓楼。
「一直線だよ・・・北京だよ・・・」と歌いながら・・・。
昨晩の夜のライトアップ‘天安門’も感動的だったが、この十字路にも感動した!

突風の中歩くこと1時間。やっと見つけた梅蘭芳記念館は何と休館!(改装のため)ガックシ!

 「たのもおー!!」


勧誘、三輪車胡同めぐり
せっかくここまできたのだから、恭王府に寄って行こう、と思い立ち歩きだした。
この地域は下町の‘胡同’の景色が見られる。恭王府近くで三輪車のおじさんの勧誘を受けた。
案内してくれるルートの地図を片手に、断っても断っても離れない。
「今から、恭王府に行くんだから・・・」と中に入ったが、出てきたらまだ待ち構えていて、またも勧誘にあってしまった・・・
結局、乗らなかったが。なんか一人で乗ってもツマンナイもんね。

 入り口


恭王府は、北京三大名園のひとつで、自然の岩の造形が見事な庭園である。
観光客は韓国からの団体さんと、中国の地方からの団体さんがいただけだった。
私はちゃっかり、中国の地方からの団体に混じって、ガイドさんの説明を聞いていた。
「北京三大名園のひとつ」というのも、ガイドさんから聞いた話だ。それと、もうひとつ耳寄り情報が!
岩の中(洞窟のようになってる)に‘康熙帝’が書いた‘福’の字を彫った石があるというのだ。
この‘福’の字をペロ〜ンと上から下まで両手で撫でて、ぺタッと両端に手を置くと「幸せ」になるというのだ・・・。

真っ暗な洞窟の中に、ガラスがはめられた‘福’の字がありました。
それに触るために、韓国からの団体さんが列をなしています。なかなか触れない・・・
上から下まで撫でるには2mほどの長さがありました。ペロ〜ン、ぺタッ!
園内ではお土産用に‘福カード’も売っています。私は父にお土産にしました。(テレカのようなの)


真ん中の黒い穴の中に‘福’の字が彫られた岩があります


恭王府劇場は由緒ある、京劇の劇場です。園内の竹に囲まれた一角にその劇場はあります。
暗幕が引かれて内部は見えませんでしたが、隙間を覗いたら、中で子供たちが立ち回りの練習をしていました・・・。

夜のテレビ番組
いやあ、実に歩いた。帰りは恭王府近くのバス停からバスに乗った。
行きは1時間も歩いたのに、帰りはあっという間だった。
今回の旅行も、北京だけに1週間滞在は長いかな?と思いきや、あっという間だった。
買い物もたくさんした。まだ買い足りないが、すごい量になっていた。
今晩は部屋で荷物整理しなきゃ!

テレビを見ながら、荷物との格闘が始まった。番組はクイズ番組だった。4択である。
字幕もあるので、聞き取れなくても問題と4枝が画面に書かれるから、私にも少しは答えられる。
「んっ?待てよ・・・これって、もしかして・・・中国版クイズミリオネア?」そうだったのです!
司会は‘女みのさん’賞金はなくて、賞品があがっていくシステム。
例えば、故宮観光→香港観光→韓国旅行→国外旅行というようにグレードアックしていくのだ。
応援席には奥さんや、友人がひとりいて、祈るようにしているシーンがアップで映る・・・。
テレホンや50/50のライフラインもいっしょ。「へー、女みのさん・・・ためてるねえ・・・」
テレビに見入ってしまい、荷物整理がはかどらない・・・。

あっという間の一週間。明日は帰国。帰りたくないよー、このまま住みたいよお・・・(涙)
「もし、クイズミリオネアで1000万獲得したら、迷わず中国移住だな!」と、
妄想しながら荷物と格闘する私だった・・・


北京最終回につづく






vol.49